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東京高等裁判所 昭和33年(行ナ)29号 判決 1958年11月25日

原告 新井実

被告 特許庁長官

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一請求の趣旨

原告訴訟代理人は、「昭和三十一年抗告審判第七九一号事件について、特許庁が昭和三十三年六月三十日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求めると申し立てた。

第二請求の原因

原告代理人は、請求の原因として、次のように述べた。

一、原告は昭和二十九年三月十七日別紙記載のようにSUPER SEWの文字を、二重装飾文字で書いてなる商標について、第十七類裁縫機及びその各部その他本類に属する商品を指定商品として登録を出願したところ(昭和二十九年商標登録願第六、六四三号事件、)、審査官は同年六月三十日出願公告決定をなし同年九月十四日出願の公告をなした(昭和二十九年商標出願公告第一九一五九号)。しかるに審査官は、その後昭和三十一年三月十七日にいたり拒絶査定をしたので、原告は同年四月十三日右査定に対し、抗告審判を請求したが(昭和三十一年抗告審判第七九一号事件)、特許庁は昭和三十三年六月三十日原告の抗告審判の請求は成成り立たない旨の審決をなし、その謄本は同年七月八日原告に送達された。

二、審決は、その理由において、原告の出願商標「SUPER SEW」は、容易に「非常に良く縫える」と解することができるものであるから、これを裁縫機について使用するときは、単に用途、効用を表示したに止まり、自他商品を区別する標識としての特別顕著の要件を具えず、原告の出願商標は、商標法第一条第二項の規定により登録することができないものとしている。

三、しかしながら審決は、次の理由によつて違法であつて、取り消さるべきものである。

すなわち、本件商標のように、「SUPER SEW」のローマ字を書してなる商標が、その使用する商品について、単に効能を表示するに過ぎず、特別顕著性を具備しないものか、または特別顕著性の要件を具有するかどうかの決定は、問題の性質上抽象的な標準を立てゝ決定することは不可能であつて、当該商標についての使用方法、商品取引の実際等を考慮して初めて決定すべきものである。

そこで本件商標をみる場合「SUPER」なる語が「非常に良い」という意味で各種商品に使用されており「SEW」が「縫う」の意味を有するから、両語を合せれば「非常に良く縫える。」という観念を有すると解することは、英語智識の普及した今日においては容易であるという決定は、あまりにも独断的なこじつけであつて、それは単にそのような観念を引き出すこともできるというに止まり、通常取引市場において、本件商標が「非常に良く縫える。」との観念を有する商標であると理解して取引されることは全くないといつてよく、別段意味を考えず「SUPER SEW」そのまゝで取引されているのが実情である。

また審決は、本件商標は商標を使用する商品の効能を表示するものであり、特別顕著性を備えないというのであるが、商品の効能表示とは、当該商品の特徴、良質性を表示するために通常使用されている表示を指すものであつて、本件商標はこの概念にあてはまらず、すなわち本件商標と同一、又はこれに類似する表示が、商品の効能の表示として一般に用いられて居らず、登録例を上げても「SEWMAGIC」(登録第四四〇一三四号)「SUPERMATIC」(登録第五〇〇五八四号)等が、特別顕著性のあるものと認められているのをみても、本件商標が特別顕著性のない商標であるとするのは正当でない。

これを要するに、本件商標は、現在わが国において「非常に良く縫える。」という意味で一般に解されることのないのみならず、本件商標が、指定商品の品質、特徴を表示するために、通常使用されてはいないのであるから、審決が本件商標登録出願を、商標法第一条第二項に該当するものとして、これを拒絶すべきものとしたのは違法である。

第三答弁

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、原告主張の請求原因に対して、次のように述べた。

一、原告主張の請求原因一及び二の各事実は、これを認める。

二、同三の主張は、これを否認する。

本件出願の商標中「SUPER」の文字は、商品について普通使用されている文字である。(例えば、「大学スーパー」(目薬)、「スーパーライオン」(歯磨)は、新聞、雑誌、放送、テレビ等でしばしば広告される著名な商標である。)そしてその意味は、「特別上等品」、「特別優秀品」、「極めて優秀なる」商品の良質性を表示するため世上一般に普及されている。次に「SEW」の文字は、「縫う」の意味を有する英語で、日常用語である。かつ本件出願の指定商品ミシンの英語は、「SEWING MACHINE」であるから、通常この種商品を取扱つている当業者に「縫う」の意味に解され使用されているものと解される。従つて商品ミシン機に「SUPER SEW」の文字を一連に書したものを見れば、当業者は勿論、一般世人も「非常に良く縫える。」の意味に解することは、この種商品に関する英語の普及の程度から容易であり、かつこのような文字は当業者がミシン機について任意採択使用し得るところの文字であつてみれば、他人の商品と区別し得る標識とはならない。

また「SUPER SEW」の文字は、上記の理由から、「特別上等な」、「特別優秀な」、「極めて優秀な」裁縫機という意味に解することも容易であるから、この点からしても、自他商品を区別するに足る標識としての特別顕著性がないものである。

なお原告の引用するような登録例が存することはこれを認めるが、右は本件とは事例を異にするものであるから、必ずしも基準とはなし得ないものである。

第四証拠<省略>

理由

一、原告主張の請求原因一及び二の各事実は、当事者間に争がない。

二、右当事者間に争のない事実及びその成立に争のない甲第一号証(本件商標登録願)を綜合すれば、原告の出願にかゝる本件の商標は、別紙記載のように、「SUPER SEW」の文字を、二重装飾文字で横書にして構成されたもので、第十七類裁縫機及びその各部その他本類に属する商品を指定商品とするものであることが認められる。

よつて本件商標が、商標法第一条第二項にいわゆる特別顕著なものであるかどうかを判断するに、「SUPER」の文字は、「あり余まる」、「その上に加える」等の意義から、今日においては、「特に優れたもの」を指示する接頭語として極めてしばしば用いられている英語であり、また本件指定商品裁縫機の英語がSEWING MACHINEであることを知る者に取つては、本件商標中の「SEW」の文字は、これを省略したもので「裁縫機」を意味するものと容易に理解される。してみれば、これらの人々に取つて、本件商標「SUPER SEW」は、「特に優れた裁縫機」を意味するものに外ならず、これを以て、ひとしく「特に優れたもの」と自負し、誇称する他の多くの裁縫機の間にあつて、自他を区別する標識とは到底なし得ない。

原告代理人は、本件商標「SUPER SEW」は、別段意味を考えず、「SUPER SEW」のまゝで取引されているのが実情であると主張し、当裁判所も、本件商標によつて、指定商品である裁縫機その他の商品を取り扱う人々のすべてが、これを前述の意義に理解し取引するものでないことは、これを認めるにやぶさかではないが、本件のように、指定商品と関連し、かつ通常使用せられる英語をもつて構成された商標による商品の取引については、その取引者及び需要者の少なからざるものが、前述の程度の英語の理解はこれを有し、従つて本件商標の意義を前述のように理解するものも決して少なくないものと解さなければならない。

なお原告代理人が引用する登録商標は、前述する意義において、本件商標とその性質を異にするものであるから、これを以て前記判断を覆す資料とすることはできない。

三、以上の理由により、原告の本件出願の商標は特別の顕著性を欠くものとなした審決は相当であつて、これが取消を求める原告の本訴請求はその理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決した。

(裁判官 内田護文 原増司 入山実)

本件出願商標<省略>

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